夢のかよひ路
夢のかよひ路




 遠くで鈴の音がする。
 目を開けたら一面の白の世界だった。
(あれ、わたしどうしたんだろう)
 先程、自分は紫姫に就寝の挨拶をして床についたはずだ。
(これって、もしかして夢?)
 花梨はゆっくりと周りを見まわした。光が降り注いでいるような白く暖かい場所に自分はぽつりと
立っている。
 足は地に着いていなかったが恐怖はなかった。不思議と心が落ち着くような安心感がある。
鈴の音がする。
 頭上から降り注ぐ音に呼応するかのように遠くでまた鈴が鳴った。
(誰かが…呼んでる?)
 そう思ったらふわりと身体が軽くなった。鈴の音に誘われるように前へ進んでゆく。
目の前に光が見えた。
 それは近づくにつれて次第に大きくなっていく。光は七色に煌いた。
その美しさに引き込まれてしまう。
 目が離せなかった。
 さらに光に近くなる。七色の煌きはぼんやりとした光なのではなくはっきりした
球形を作っているのがわかった。
 鈴の音がする。
 目の前の七色の光の球体は人が一人楽に入ってしまうくらいの大きさにまでなって
目の前で止まった。
(中に、人が…)
 球体の中には胎児のように身体を丸めて眠っている少女がいた。年は花梨と同じくらいだろうか。
 球体の中心で小さな光が瞬いた。
 優しい表情で眠る少女の腕に抱かれるような光は赤、青など計八つ。
(すごく綺麗)
花梨は七色の球体にそっと手を触れた。触れた指先から暖かさが流れ込んでくる。
 頭上で鈴の音がした。
 指先から光が溢れる。
(な、なに?!)
 七色の光の渦が身体を包み込む。眩しくて花梨は目を閉じた。まぶたの裏に焼きついた光の残像が
収まるのを待って目を開ける。
 目の前に少女が一人立っていた。球体の中で光を抱いて眠っていた少女が
すべてを包み込む微笑を浮かべて、今花梨の前にいる。
「こんにちは」
 少女は丁寧に頭を下げた。つられて花梨も挨拶をする。
「こんにちは」
 少女が明るい表情になった。先程までとは違って生き生きとした眩しいくらいの笑顔をしている。
「あなたは誰?」
 花梨がたずねると少女は
「元宮あかね。龍神の神子だよ」
と答えた。
「龍神の神子?!」
「あなたもそう呼ばれてるんでしょう?あなたから龍神の力を感じるもの」
「もしかして…」
 花梨は紫姫から聞いたことを思い出した。百年前にも異世界からきた少女が龍神の神子となり、
龍神の力を借りて京を救ったと。このあかねという少女はその百年前の神子なのだろうか。
あかねは花梨の問いを察したのか小さくうなずいた。
「大丈夫だよ」
 花梨の手をあかねの手が包み込む。球体に触れたときのように暖かさが伝わってきた。
「あなたにも京が救えるよ」
「本当に出来るのかな…」
 滅びへの道を進んでいる京。それを食い止めるために花梨も八葉も力を尽くしているのだが
うまくいかないこともある。院と帝に龍神の神子として認められた今でも、不安が多い。
「わたしにはわかる。龍神の神子だもの」
 あかねは手を離した。
「そろそろ戻ったほうがいいよ」
 鈴の音がする。体がだんだんと重くなってきたのを花梨は感じた。目の前はぼやけてくる。
「あなたとあなたの大切な人のために。がんばってね」
 鈴の音に重なるように聞こえたあかねの声を最後に花梨の意識は急速に落下していった。
 すとん、と身体が重くなるような感覚がして目が覚めた。見えた天井は見なれた
紫姫の屋敷のものだ。起きあがると紫姫が部屋へ入ってきた。
「神子様、お目覚めになりましたか」
「おはよう、紫姫。夢を見たよ」
「夢、ですか?」
 紫姫が首をかしげる。
「うん。前の龍神の神子に会ったよ。私にも京を救えるからがんばって、って」
 紫姫は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。
「百年前の神子様にですか。きっと龍神様のお導きなのでしょうね」
「そうかも。紫姫、私がんばる」
 京を救ったあかねに負けないように。
「はい、わたくしも精一杯神子様にお仕えいたしますね」
 花梨は、よしと呟くと両手を握り締めた。この手にはあかねからもらった力がある。
それに八葉や紫姫、大切な仲間がたくさんいるのだから、きっと大丈夫。
 花梨はあかねにまた会いたいと思った。今度は京を救ったその時に。






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