紅茶が語る想い
紅茶が語る想い



  窓から差し込む夕日がサルーンをゆったりと染め上げてゆく。
  テーブルの上には手紙がたくさん置かれている。タナトス退治の依頼、お礼の手紙、他にも
さまざまな手紙が届く。それを確認し、分類するのはニクスの役目だ。
  ニクスは目を通していた手紙から目を上げた。
  視線を向けた窓からは山の端に隠れようとしている太陽が見える。手紙が届いたのは
昼頃だから、すいぶん長い間集中して作業していたようだ。
  出かけた仲間たちはそろそろ戻ってくるだろうか。
  ドアを見ると、まるで予期したかのように開いた。
「ただいま、ニクスさん!」
「おかえりなさい、アンジェリーク、ジェイド」
「ただいま、ニクス。依頼は完了したよ」
「ありがとうございます。おふたりとも疲れているでしょう?お茶でもいかがですか」
  ニクスは用意してあったティーセットで3人分の紅茶を淹れた。やわらかな香りがたちのぼる。
  お茶を飲みながら、依頼の詳しい内容や経過をアンジェリークとジェイドから聞いた。
今回の依頼も問題なく終了したようだ。
「おいしいお茶をごちそうさま、ニクス。俺はそろそろ夕食の支度をしてくるよ」
  ジェイドがソファから立ち上がる。
「あ、ジェイドさん。私もお手伝いします」
「ありがとうアンジェリーク。でもきみは疲れているだろう?ゆっくり休んでいて」
  続いて立ち上がろうとしたアンジェリークを優しく押しとどめ、ジェイドはキッチンへと
入っていった。
「アンジェリーク、もしよろしかったらもう少しお茶におつきあいいただけませんか?
新しいお茶を淹れましょう」
「はい。ありがとうございます、ニクスさん」
「いえ。仲間と楽しく飲む紅茶もおいしいですが、貴女とふたりきりで飲む紅茶もまた格別なのですから」
  新しいティーカップに紅茶を注ぐ。外側には色とりどりの花が描かれていて、内側は純白のカップだ。
「アンジェリーク。貴女は紅茶占いというものをご存知ですか?」
  正面に座った少女は小さく首をかしげた。
「飲み終わったカップに残った茶葉の形や枚数で占うのですよ。この占いに必要なものは
おいしい紅茶とおだやかなひととき、そしてほんの少しの想像力です。どうです、試してみませんか」
「やってみたいです。なんだか楽しそうな占いですね」
「ええ、その通りです。ではまず私と楽しい時間を過ごしていただけますか、マドモアゼル?」
  しばらくニクスはアンジェリークと会話を楽しんだ。エルヴィンのこと、仲間のこと。
話題が尽きることはない。
「おや、もう飲み終わってしまいましたね。もう少し貴女とお話をしていたかったのですが。
では占いをやってみましょうか」
  カップを左手に持って、右回りに3回。回したらカップにソーサーを乗せてゆっくり逆さにする。
3つ数えたらそっとカップを開けて。
「さあ、アンジェリーク。貴女のカップに残った茶葉はどんな形をしていますか?」
「何に見えるか・・・ですよね」
カップを眺めることしばし。アンジェリークが顔を上げて微笑んだ。
「星の形に見えます、ニクスさん」
星の形が意味するもの。
「貴女には幸福な未来が待っているという知らせですね。貴女の進む道には光があふれている」
「ニクスさんはどんな形をしていますか?」
「さあ、どうでしょう」
「あ、教えてくれないなんてずるいです!」
この占いの通りの未来は起こらないはずなのだ。それは自分がよく知っている。
ニクスは微笑みでごまかすことにした。
ちょうどタイミングよくドアが開き、レインとヒュウガが戻ってきた。ジェイドもキッチンから
やってくる。
「おかえりなさい、レイン、ヒュウガさん」
「おかえり。これでみんな揃ったね。ちょうど夕食ができたんだ。温かいうちに食べよう」
「そうですね、では行きましょうか」
カップを片付けるときにニクスはそっとカップの底を見た。何度見ても変わることはない。
他愛のない占いなのだとはわかっているが、願ってしまう。
占い通りの結果がもたらされることを。
カップの底の茶葉はハート型。枚数は9枚。
それが意味するのは。

恋に予期せざる幸運あり。






戻る