SWEET RING
SWEET RING






ある晴れた日の休日。
 天気もいいし、ショッピングでも楽しもうと思い、香穂子は駅前通りへと来ていた。
ここはいつ来てもたくさんの人がいて活気にあふれている。
 人ごみの中を目的もなく歩いていた時だった。
ふと、見知った顔を見たような気がして、香穂子は振りかえった。
「あ……先生」
 歩いていたのは金澤だった。
「よぉ。お前さんか。こんなところで何してるんだ?」
「買い物ですよ。そういう先生は?」
「俺か?見ればわかるだろ?」
 得意げに両手でかかえた紙袋を示す。中にはたばこやらチョコレートやらがつめこまれている。
「パチンコ……ですか?」
「ご名答。久しぶりに大当たりだ」
 金澤はそう言うと紙袋の中から小さな箱をとりだす。
「お前さんにやるよ」
 香穂子は差し出された箱を手にとる。キャラメルのようだが外装のフィルムがはがされている。
どう見ても食べかけだ。
「えーそっちのチョコの方がいい」
 袋の中からお目当てのチョコレートを取ろうとするのだが、ひょい、とよけられてしまった。
「だーめ。それしかやらないから。じゃあな」
 ひらひらと手を振ると金澤は歩いて行ってしまった。
「あ、先生……もう……せっかくお茶でも飲もうと思ったのに……」
 香穂子は溜め息をつく。
 学校に行けばいつでも会える。でも「学校」という場所では「生徒と教師」という立場でしか会えない。
コンクールが終わってしまった今、口実を作らなければ会いに行くのも難しい。
学校にいる限り「恋人同士」にはなれないのだ。
こうして休日に外で逢った時くらい、デートとまではいかなくても、少しでも長く一緒にいたかった。
「先生の……ばか」
 もらったキャラメルを捨ててやろうかと思った。でも、キャラメルに罪はない。
そうでなくても捨てられないだろうと思った。金澤がくれたものなのだから。
それがどんなくだらないものであろうと、手放したくない。
 せっかくだからひとつ食べてみようと箱をあける。
「何……これ」
 箱の中にはキャラメルが入っていた。思った通り数は少なくなっている。
しかし、その隙間を埋めるように入っていたのは、小さく折りたたまれた紙と指輪、だった。
 かわいらしいピンク色の天然石がついた、シンプルなデザインの指輪だ。
香穂子にはその指輪に見覚えがあった。いつだったか、金澤と一緒に出かけた先で見つけたものだ。
とても気に入ったのだが、高校生のお小遣いで買うには少々高いものだった。
お金をためて買おうかな、と話していたのだ。
「覚えてくれてたんだ……」
 小さくたたまれた紙を開いてみた。そこには金澤の字でこう書かれていた。
「校則では、学校で指輪をつけるの禁止。っていうか俺が恥ずかしいから学校につけてくるの禁止」
 金澤らしいと思った。知らずに笑みがこぼれる。
そっけない態度に見えたのは、照れていたから、なのだろう。
「そうだ。いいこと思いついた」
 チェーンを買って、指輪をペンダントにしよう。いつも身につけていたいから。
制服の下につけていれば、見えないだろう。こっそりと、金澤にだけ教えればいい。
その時、どんな表情をするのか。今から楽しみだった。

 香穂子はキャラメルを口に放りこむ。
 いつもより、とても甘く、幸せな味がした。


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