長き夜に
長き夜に




 






久しぶりに再会した友は随分と変わっていた。
見た目が変わったわけではない。いや、多少顔つきが変わっていたかもしれない。
別れた時に感じていた、張りつめた糸のような危うさが消え、穏やかな表情をするようになった。
内面の変化があらわれたのだろう。
変化のきっかけは、ひとりの少女。女王の卵であるアンジェリークとの出会いなのだろう。
アンジェリークはヒュウガとともにこの聖都へやってきた。教団長に会うためだ。
謁見の際にはディオンも同席した。
芯の強い、しっかりとした女性だと思った。それと同時に女王にふさわしい、とてもやさしい心の持ち主だと感じた。
彼女ならば、悲しい事件のせいで思いつめ感情をおさえつけてしまったヒュウガの心をあたたかく包みこみ、
癒すことができるだろう。
ディオンは視線を上げる。ちょうどアンジェリークを二階にある部屋まで送った友が、階段をおりてくるところだった。
隣に座るヒュウガにグラスを差し出す。
「アンジェリーク殿は?」
「もう休んだ」
そう言うとヒュウガは微かに微笑む。こんな穏やかな表情を見るのは久しぶりだった。
「貴様とこうして酒を飲むのも久しぶりだな」
ヒュウガが騎士団を出奔して以来だから、2年ぶりだろうか。
「もうそんなにたったのか」
ヒュウガがつぶやく。
お互い会わなかった空白の時間。それはすなわち大切な仲間を失ってから過ごした時間だ。
決して短い時間ではない。だが、守るべきものを見定めるのに必要な時間だった。
自分は騎士団を預かる身となった。そして友はかけがえのない仲間と、命に代えても守るべき存在を見つけた。
大切なものを手に入れた友は強くなった。槍の腕だけでなく、心も。
その手で女王の卵を守る事のできるヒュウガが少しうらやましい気がした。
しばらくふたりで黙ってグラスを傾けた。まるで昔に戻ったような穏やかな時間が流れる。
「ヒュウガ。貴様はアンジェリーク殿のことをどう思っているんだ?」
「どう、とは?」
「女王の卵ではなく、ひとりの女性としてどう思っている?」
酒に酔った勢いでふいに口をついて出た言葉。言ってしまってから、聞くべきではなかったとディオンは後悔する。
謝ろうと口を開きかけたとき、静かな声がする。
「あの方は、俺にとって大切な方だ」
「ヒュウガ?」
まさか答えが返ってくるとは思っていなかった。隣を見るとヒュウガはじっとグラスを見つめていた。
グラスの先に何が見えているのか、やさしいまなざしをしている。
そのまなざしがすべてを物語っていた。
「いいのか?」
このままでは、ヒュウガは辛い思いをするだろう。彼女はいずれ世界を救う女王となる。
再び大切な人を失ってしまう。どんなに思っていても、必ず別れがやってくる。
それでもかまわないと言うのだろうか。
「ああ」
ヒュウガが短く答える。すべては覚悟の上ということなのだろう。
ならばこれ以上は何も言うことはない。
ディオンは黙ってヒュウガのグラスに酒を注ぐ。
夜はまだはじまったばかり。長い夜になりそうだった。




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