見えない絆
見えない絆
客を送り出したディオンはその足で教団長の私室へ向った。報告のためだ。
扉をノックし、返事を待って入室する。
教団長であるルネは窓辺におかれた鳥籠の横、いつものお気に入りの場所で窓の外を眺めていた。
先程の謁見の時とはうってかわり、素顔をさらしている。
「お帰り、ディオン」
振りかえりもせず、ルネは言う。
「ただ今戻りました。お客人を無事、外までお送りしてまいりました」
「そっか。ありがと」
客人とは、このセレスティア教団にとって今やとても重要な存在となった者たちだ。
世間ではオーブハンターとして知られる、女王の卵とその仲間たちだった。
代々教団に伝わる、未来の女王の姿を描いたと言われる絵にうりふたつの少女、アンジェリーク。
その少女を守り、この聖都セレスティザムまでやってきたのはかつての同志のヒュウガだった。
騎士としての最高位である聖騎士にまでのぼりつめた男。騎士として、仲間として互いを磨きあってきた。
悲しい事件がきっかけで進む道は別れてしまったが、今でも自分と同じ願いのために力をつくしている。
それがディオンにはとてもうれしかった。
「ヒュウガは元気そうだった?」
騎士団を出奔した身で教団長に会うことはできないと言い張り、ヒュウガは謁見の時に姿を見せなかった。
聖都から出ることのできないルネは顔を見ることすら叶わなかった。
「ええ。とても」
できるだけ詳細に、ヒュウガの様子を語った。その言葉をルネはしばらく黙って聞いていた。
ふいにゆっくりとルネが振りかえる。今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「これで、よかったんだと思う?ディオン」
「ルネ様?」
「ボクはまた間違えたりしてないかな……」
二年前、ルネのとった選択が悲しい結果をもたらした。大切な騎士を二人失った。
ディオンにとっても、ルネにとっても大切な二人を。
今もまた、このアルカディアにとって大切な少女を手放した。
女王の卵の安全を考えれば、覚醒の時までこの聖都にとどめることが最善だ。
だが、それはアンジェリークの意志に反する。彼女はオーブハンターとして人々を救う道を選んだ。
それは同時に常にその身を危険にさらすことなのだ。
もし、女王の卵が命を落すことになってしまったら。
その不安がルネの表情を曇らせているのだ。
ディオンはゆっくりとルネに近づくとその手をとる。
「大丈夫ですよ、ルネ様」
はっ、とルネは顔をあげた。
「アンジェリーク殿はヒュウガが必ず守ってくれます。奴だけではありません。オーブハンター達がいます」
他にもディオンをはじめ銀樹騎士達も何かあれば必ず女王の卵を守る。たとえその命をかけることになったとしても。
「だから、そんな顔をしないでください」
最善の方法が、正しいとは限らない。今は最善ではないけれど、時間がたてば最善と呼べるようになるのかもしれない。
信じることができれば。女王の卵を。仲間を。そして、自分を。
「……ディオン……ありがとう」
ルネはしっかりとディオンの手を握りかえした。
「信じるよ、みんなを…そして自分を」
いつか、自分の選択が正しかったのだと思えるように。
ルネはにっこりと微笑む。やっと見せてくれた笑顔だった。もう大丈夫だろう。ディオンはそっと手を離した。
「そういえば、この後ヒュウガと会うのですが、何かお伝えすることはありますか?」
「そうだね……信頼してるから、って」
「わかりました。必ず伝えます」
そろそろ部屋を辞そうと扉に向った。
「ディオン」
呼びとめられて、振りかえる。
「同じ言葉を、君にも贈るよ」
「ルネ様?」
「信頼してるよ、ディオン。だから、これからもそばにいて欲しい」
ディオンは目をみひらく。
長として教団を統べる身であっても、中身は十五歳の少年なのだ。
ディオンはやさしい笑みを浮かべる。
「私でよろしければ、喜んで」
そう答えるディオンには、何の迷いもなかった。
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