覚悟の重さ
覚悟の重さ
扉をノックする音に、レインはあわてて手にしていたものを引き出しに仕舞いこむ。
しっかりと閉まっていることを確認してから、どうぞ、と声をかけた。
「失礼しますよ、レイン君」
扉の向こうからあらわれたのはニクスだった。
「どうしたんだ?ニクス」
「先日レイン君に頼まれたものが、ご用意できたので」
そう言うとニクスは手にしていた小箱をレインに手渡す。
手のひらにおさまるくらいの大きさの箱なのに、ずっしりと重い。
「サンキュ。助かったぜ。手間かけさせて悪かったな、ニクス」
「それはかまいませんが……本当に必要なのですか?」
ニクスの視線が小箱へとそそがれる。
「ああ。でなきゃ、こんなもの頼んだりしないさ」
レインは慎重に小箱をあける。中から出てきたのは小銃用の実弾だった。
「ですが君の銃では実弾は使えない。違いますか?」
「違わないさ」
普段使っている銃は対タナトス用のもの。実弾ではなく、浄化能力者の精神波を発射する特殊な銃だ。
タナトスには有効でも人間には傷ひとつ負わせることはできない。
この銃は人間に対して、まったく役に立たないのだ。
レインは引き出しをあけると先程あわてて仕舞いこんだものを取り出す。
それは実弾を撃つことのできる銃だった。
「君はいったい、誰と戦うつもりなのですか?」
ニクスの問いかけにレインはきっぱりと答えた。
「あいつを傷つけようとする、すべてのものと」
それがタナトスであればいつもの銃だけ使っていればいい。だが敵はタナトスだけではない。
いずれ人間が敵となれば、今の自分では無力だ。大切なものを守るための力が必要なのだ。
人に対して有効な銃を手にした時、覚悟を決めた。
どんなことをしてでも、何を引き換えにしても、必ず守り抜く。
その結果、己の手を汚すことになったのだとしても、すべてを背負って生きていく覚悟を。
同時に、この銃の引き金は、ギリギリまで引かない。そう決めた。
人を傷つけることは、思っている以上に簡単だ。
彼女は人が傷つけば、悲しむ。人を傷つければ、悲しませてしまう。
「道具っていうのは、使い方ひとつで、いいものにも悪いものにもなるんじゃないか?」
それがたとえ人を傷つけるための道具であったとしても、使い方によっては人を守ることができる。
そうレインは思っている。そしてそれを、実践してみせるつもりだった。
「そうですね。そこまで考えているのでしたら、私はもう何も言いません」
「ニクス。悪いが、このことはアンジェリークには……」
「わかっています。君のその思いに免じて、黙っていましょう。貸しひとつ、ですね」
くすくすと笑いながら、ニクスは部屋を出ていった。
ニクスの後姿を見送ると、レインは再び銃を手にする。
その重さを、確かめるために。
そして実弾とともに引き出しに納めると、ゆっくりと鍵をかけた。
戻る