恋のかけひき
恋のかけひき
取材で近くまで来たし、陽だまり邸に寄って行こう。
ベルナールはそう決めると、さっさと歩き出す。
ここのところ、忙しくてあまりゆっくりできなかった。
少しくらい寄り道したところで、怒られはしないだろう。
それに、彼女の笑顔が見たかった。
陽だまり邸の玄関をノックする。出迎えてくれたのはニクスだった。
「おや。ベルナールでしたか」
「こんにちは。取材で近くまで来たから、ちょっと寄ったんだ」
「そうでしたか。どうぞ入ってください」
いつも賑やかなのに、今日はとても静かだった。サルーンが広く感じる。
「あいにく今日は私しかいないのですよ」
ニクスが紅茶の入ったカップを差し出す。
「アンジェリークもいないのかい?」
「ええ。彼女はレイン君と一緒に依頼人のところへ行っていますよ」
アンジェリークはいないのか。そう思ったら急に寂しくなった。
「せっかくですから、オーブハンターの仕事を取材しますか?そうすれば彼女のところへ行けますよ」
くすくすと笑いながらニクスが言う。寂しいという思いが顔に出てしまったようだ。
「残念ながら、取材が立てこんでるんだ」
取材だけではない。書かなければいけな記事もたくさんある。
確かに彼女には逢いたいけれど。
助けを待っているアルカディアの人々を見捨てる事も、ベルナールにはできないのだ。
気持ちを落ちつけようとカップに口をつけた。ほどよい渋みが広がる。
「以前から聞きたいと思っていたのですが」
唐突にニクスが言い出した。
「貴方にとって、アンジェリークとはどういった存在なのですか?」
「どう、って……」
初めて会ったときは、親戚の女の子だとしか思っていなかった。
けれど再会した今は。自分の手で守ってあげたいと思うほど、愛しい。
「彼女はアルカディアが待ち望んだ女王の卵です。貴方に彼女を守り抜くができますか?」
確かにベルナールには浄化能力はない。タナトスから彼女を守ることはできないのだ。
そんなことは最初からわかっている。
「それでも、僕にできることをするだけさ」
自分にできることは、新聞の記事を書く事だけ。
女王の卵という希望の光があることを。
オーブハンターの活躍を。
彼女の頑張る姿を。
そして、救いを求める人々の声を。
直接彼女を守ることは出来ないけれど。共にタナトスと戦う事だけが彼女を守る唯一の方法ではない。
自分は違う方法で彼女を守ってみせる。
それがどんなに困難なことだとしてもかまわなかった。
彼女の笑顔を守りたい。その気持ちは誰にも負けない自信があった。
笑顔だけではない。女王の卵ではなくひとりの女の子として、安らげる場所を。
ただのアンジェリークに戻れる場所を守ってあげたい。
「タナトスから彼女を守る役目は君たちオーブハンターにまかせるよ」
アンジェリークを守りたいという思いは同じだから。
「それでよろしいのですか?」
ニクスは続けて、我々オーブハンターが彼女の一番近くにいてもいいのですか、と問う。
「かまわないよ」
ベルナールは唇に挑戦的な笑みを浮かべる。
「何があっても、アンジェリークを振り向かせてみせるさ」
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