貴女という輝き
執務が終わったときは、すでに日が落ちていた。
聖獣の宇宙はまだ若い。守護聖もやっと全員が揃ったばかりだ。やらなければならないことは、
それこそ山のようにあった。
執務室から私邸へ戻る途中、ティムカは中庭に立ち寄った。
星明りに照らされた中庭は人気もなく静かだ。
少し冷たい風が心地よかった。そっと運ばれてくる花の香りは疲れを忘れさせてくれる。
1人、ベンチに腰を下ろして空を見上げる。
見上げた深い藍色の空には無数の星が輝いていた。
この星は皆で守り育てている生命。エトワールと、守護聖と、そして聖獣の女王と。
こうやって空を見上げると、自分が守護聖としてこの宇宙を支えているのだという実感が湧いてくる。
美しい空だ、とティムカは思った。
「ティムカ・・・?」
小さな声で呼ばれて振り返る。
「・・・女王陛下・・・」
そこに立っていたのは聖獣の女王、コレットだ。
そばへ行くと、今にも泣きそうな顔をしているのが見えた。
「こんな遅い時間に外へ出ても大丈夫なのですか?」
「皆が頑張ってくれていますから。それにどうしても貴方と話がしたくて」
「・・・私に、ですか?」
コレットが小さくうなずく。星明りに照らされた顔色はあまり良くない。
ティムカはそっとコレットの手を引いて、ベンチへと座らせた。
「・・・・・ごめんなさい・・・。私は貴方から、大切なものを奪ってしまった。あのときも、今も」
苦い記憶がよみがえる。
不思議な大陸、アルカディアから帰る日、コレットが自分の気持ちを打ち明けてくれた。
“お願いがあります、ティムカさま。聖獣の宇宙で、育成のお手伝いをしていただけませんか。
私、ティムカさまと一緒にいたいんです”
その言葉はとても嬉しかった。
でも、否と答えたのだ。
ティムカも白亜宮の惑星の未来を背負っていた。それを簡単に捨て去ることは出来ない。
そして、何よりも。
コレットとは生きている時間が違う。それが怖かった。
彼女は聖獣の女王、自分は神鳥の宇宙に暮らす1人の人間に過ぎない。
長い時間を生きるコレットと、確実に時を刻んでいく自分と。
いつか、その現実に耐えられなくなる日がやってくる。
だからあのときはこう答えた。
“貴女のお気持ちは大変嬉しいのですが、僕はたくさんの人々が待っている白亜宮の惑星に戻ります”
それだけ言うのが精一杯だった。
白亜宮の惑星に戻った後も、時々心は聖獣の宇宙へと飛んでいた。
聖獣の宇宙は安定しただろうか、女王や補佐官は元気にしているだろうか。
思いを馳せるたび、懐かしく思うのと同時に、胸が苦しかった。
そんな時、伝説のエトワールが目の前にやってきたのだ。
まっすぐな瞳をしたエトワールは、ティムカが聖獣の水の守護聖であると告げた。
「貴方が水の守護聖であるとわかったとき、私は嬉しいと思ってしまった。貴方は大切なものを
すべて捨てて、ここへ来なければいけなかったのに」
「・・・陛下・・・」
エトワールの話を聞いて、悩んだことは確かだ。
聖獣の聖地に召されれば、故郷に戻ることはできないし、家族とも二度と会うことはできなくなる。
しかし、聖獣の宇宙と、コレットとまだ繋がっていたことに安堵している自分を心の中に
見つけたとき決心がついた。
守護聖の任を受けよう、と。
「私は自分の意思で聖地へ来たんです。守護聖になるために」
守護聖になることで、捨てたものも大きかったけれど、こうして大切に想う人と
過ごす時間を手に入れることができたのだから。
「今度こそ、全力で貴女を守りたい・・・アンジェリーク」
崩れ落ちるように寄せられた肩をティムカはそっと抱き締めた。
これからも、ずっとそばにいたい。すべてをかけて、守りたい。
愛しい人の輝きが曇ってしまわないように。
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