陽射しの円舞曲



今日はいい天気だ。
やわらかな光、心地の良い風。空を流れる白い雲はゆるやかに形を変えていく。
陽だまり邸にやってきたベルナールはいつも通り、ドアをノックした。
今日は久しぶりの休日。先日、アンジェリークが新聞社を訪ねてくれたときに、
一緒に出かけようと誘ったのだ。
「やあ、いらっしゃい、ベルナール」
ドアを開けたのはジェイドだ。
「こんにちは、ジェイド君。アンジェはいるかい?」
「そうだな、もうちょっと準備に時間がかかりそうかな」
「そうかい。じゃあ僕は庭で待たせてもらうよ」
小鳥たちの鳴き声に耳を傾けながら待っていると、しばらくしてバスケットを抱えた
アンジェリークがやってきた。
「ごめんなさい、お待たせしちゃって」
「いや、僕も少し早く来てしまったしね」
きみの笑顔に少しでも早く逢いたかったから。
ほんの少しでも長く、二人一緒の時間を過ごしたかったから。
「ところで、そのバスケットは?」
「ジェイドさんがお昼に食べてね、って作ってくださったんです」
中にはサンドイッチやパイ、クッキー、お茶などが入っているとアンジェリークは教えてくれた。
ベルナールはアンジェリークの腕からひょいとバスケットを取り上げる。
「さあ、行こうか」
向かった先は、天使の花束。
赤、紫、桃、白、橙、黄、青。色とりどりの花が咲き乱れていた。
太陽の光をいっぱいに浴び、風に揺れている花たちの姿は「天使への捧げもの」と言われるだけの
美しさだ。
「わあ、綺麗・・・!」
アンジェリークが花々を眺めながら、笑みをこぼす。よくやく出てきた笑顔にベルナールは
少しほっとした。今日、天使の花束に誘ってよかった、と思う。
「やっと笑ってくれたね、アンジェ」
「えっ?」
「この前、新聞社に来てくれたときも、沈んだ顔をしていたから気になっていたんだ」
アンジェリークも、仲間のオーブハンターもこれ以上にないくらい頑張っている。
それでもタナトスの被害がなくならないのが現状だ。
女王の卵としての使命はどれほどの重さだろうか。
「ねえ、アンジェ。今日は新聞記者としての僕はお休み。1人の男としてきみのそばにいたいんだ。
だからきみも、今日は女王の卵をお休みにして、この時間を楽しんでくれないかい?」
誰にだって休息は必要だ。
アンジェリークは女王の卵である前に、1人の女の子なのだ。
今日、自分と一緒に過ごす間だけでも、アンジェリークにはタナトスのことも女王の卵であることも
忘れて欲しい。小さな幸せをあげたい。
疲れたときに、アンジェリークがゆっくりと休息をとれる居場所が自分のそばであって欲しいと、
ベルナールは願う。
彼女の支えになりたかった。1人の男として。
「ありがとうございます、ベルナールさん」
ベルナールは足元に咲いていたピンクの花を1本摘み取ると、アンジェリークの髪にそっと
挿し込んだ。
「よく似合ってるよ、アンジェ。カメラを持ってきていないのが残念なくらいだ」
首をかしげたアンジェリークにベルナールは笑って答える。
「だって、今日の僕は新聞記者お休みだって言っただろう?」
新聞記者である自分を意識させたくなくて、今日はわざとカメラを持ってこなかった。
「たまには子どもの頃みたいに、大はしゃぎするのも楽しそうだと思わないかい?」
ベルナールは右手をアンジェリークに差し出した。
降り注ぐ陽射しと、包み込むような優しい風と、咲き誇る花々と。
たくさん遊んで、たくさん笑って。
自然を目一杯感じて、過ごす時間も悪くない。
重ねられたアンジェリークの手を、ベルナールはぎゅっと握り締めた。
「さあ、行こうか。僕の可愛いアンジェ」






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