夢の向こうの幸せ
夢の向こうの幸せ


  ふたりで一緒に笑顔のあふれる世界を創ろう。
  そう約束したけれど、叶うことはないと思っていた。
  アンジェリークがこのアルカディアの女王になったら、自分の手の届かない存在に
なってしまうのだから。
  だから、眠ろうと思った。
ファリアンのテーブルの下での出会い。台所で一緒に焼いたケーキの味。会話の弾んだ夕食会。
一緒に歌った、大切な人から教えてもらった歌。
  この胸の中にはアンジェリークとの想い出があふれている。
  記憶はいつでも鮮明に、何度でも再生できる。
  だから、ひとりで数える時間もさびしくないはずだ。
  彼女との想い出を見続けながら眠ろう。
  彼女の笑顔と再び出会える日まで。

「ジェイドさん?」
  声をかけられて目を開けた。
  いつの間に眠っていたのだろう。
  それとも、これはまだ夢の続き?
「ジェイドさん、大丈夫ですか。どこか調子の悪いところがあるんですか?」
  アンジェリークが心配そうにこちらを見つめている。彼女の頬にそっと手を伸ばした。
触れている指先があたたかい。
  幻じゃない、本物のアンジェリークだ。
「ああ、そうか・・・」
  先ほどまで見ていた夢は、エレボスを倒した時の、自分が永い眠りにつこうと決意したときの
記憶だ。でもあの記憶には続きがある。
  あの時、彼女は女王にはならなかった。
  ふたりで同じ時間を過ごすために戻ってきてくれたのだ。
  そう、この腕の中に。
  ゆっくり身体を起こしながら、アンジェリークの手を引いて抱き寄せる。
  すとんと腕の中に落ちてきた心地よい重さは、やっぱり幻なんかじゃない。
「大丈夫だよ、アンジェ。だから笑って」
  彼女の笑顔が好きだから。
  ずっと見ていたいから。
「君の笑顔はとても素敵だ。だからもっと見ていたい」
  アンジェリークの笑顔を見ると、幸せがあふれてくる。
  心の中が幸せでいっぱいになる。
  過去の記憶の中にある幸せじゃない。今、目の前であふれてくるあたたかな感情。
  心を埋め尽くすほどの、愛おしさ。
  この笑顔には、夢でしか出逢えないと思っていたのに。
「ああ、俺はなんて幸せなんだろう」
  これからも、ひとりの時間を過ごす必要はない。ずっとふたりで生きていけるのだ。
  彼女はアルカディアの人々の笑顔を守った。
  今度は自分が、彼女の笑顔を守りたい。
  自分の腕の中で微笑んでいる、大切な人を。
  そして、笑顔があふれる時間を一緒に過ごしたい。
  この体中が幸せで満たされても、ずっと。
「アンジェ、もう少しだけこのままで・・・」
  少しでも長く、このぬくもりを感じていたいから。
  この心に沸き起こる幸せをアンジェリークにもわけてあげたい。
  アンジェリークの額にそっとキスをした。
  そして、ぎゅっと抱きしめる。
「今度こそ、約束だよ。ふたりで一緒に笑顔のあふれる世界を創ろう」

  永遠に叶うことはないと思っていたのに。
  これはきっと、奇跡。
  今、この手の中にある、本当に欲しかったもの。
  夢なんかじゃない。
  本当の幸せ。






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