雨やどり
雨やどり




 






依頼からの帰り道。もうすぐ陽だまり邸が見えてきそうな頃のことだった。
街を出た時には晴れていた空が、気がつけば随分と暗くなり雲に覆われていた。
これは降るかもしれない。そうレインが思っていた矢先、ぽつりぽつりと雨が降りはじめた。
「あら?雨?」
隣を歩くアンジェリークが空を見上げる。
「ああ。降り出したみたいだな。少し急ぐぞ」
出掛けたときも晴れていたので、雨具の用意はしていない。本格的に降り出す前に陽だまり邸に帰りたかった。
二人で足をはやめたものの、雨はすぐに勢いを増す。あっと言う間に横なぐりの雨に変わってしまった。
ばたばたと大粒の雨が身体を打つ。レインは思わずアンジェリークの腕を掴むと走り出した。
すぐに雨やどりができそうな大木を見つけたが、その時には二人ともすっかり雨に濡れてしまっていた。
大きく張り出した枝のおかげでだいぶ雨はさえぎられている。
快適とは言いがたいが、雨が弱まるまでここで雨宿りをすることに決めた。
「大丈夫か?」
「ええ。大丈夫よ」
アンジェリークは取り出したハンカチで濡れた服をおさえた。
すっかり濡れてしまったので、ハンカチでは完全に乾かす事など出来ない。
「レイン、あなたも使ってちょうだい」
自分だってまだ濡れているのに、アンジェリークがハンカチを差し出してくる。
「オレは大丈夫だから。お前こそ、髪が濡れてる」
ハンカチを受け取ると、アンジェリークの髪をそっとなでるようにして拭いてやる。
「あの……ありがとう」
「いや、たいしたことじゃない」
雨のせいで風邪なんか引いて欲しくないから。そのために自分が犠牲になったって、かまわなかった。
アンジェリークにハンカチを返すと、レインは身体を幹にあずけるようにして空を見上げる。
空はまだ暗く、雨がやむまでもうしばらくかかりそうだった。
ふと隣に立つアンジェリークを振りかえる。雨に濡れて寒いのか、彼女は震えているように見えた。
「寒いのか?」
アンジェリークが小さく頷く。レインはあわてて上着を脱ぐと、アンジェリークの肩にかけた。
「少しはあったかいだろ」
「でもそれじゃあ、レインが風邪を引いてしまうわ」
アンジェリークが上着を返そうとするのを止め、レインは彼女の肩に腕をまわすとそっと引き寄せる。
「大丈夫。こうしていれば平気さ」
突然のことに驚いたのか、アンジェリークは身じろぎした。それにはかまわず、まわした腕に軽く力をこめる。
抱き寄せたぬくもりが、愛しい。たとえ今だけのことだったとしても、離したくなかった。
ふたりで寄りそうようにして、雨音だけを聞いていた。
静かな時間が流れる。
どれくらいそうしていたのか。やがて空が明るくなり雨も弱まってきた。
「もう、やみそうね」
ぽつり、とアンジェリークがつぶやく。
「そうだな。そろそろ帰ろうか」
レインは名残惜しそうに腕を離す。本当はもう少しだけ、こうしていたかったけれど。
早く帰って着替えなければ本当に風邪を引いてしまう。
「なんだか、酷い目にあっちゃったわね」
「そうか?オレはそうは思わないけどな」
こうして、お前と二人きりで過ごす事ができたから。
レインはそっとささやいた。





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